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ようこそ不思議な細菌の世界へ 口腔細菌 ミュータンスレンサ球菌 ( Mutans streptococci ) ミュータンス連鎖球菌は、 通性嫌気性 のグラム陽性細菌で 連鎖球菌 の一種です。名前の由来は、変異しやすいということでミュータントの意味を含めて作られたという説があります。ムタンという多糖体を作ることから由来しているという説もあります。多くの哺乳類の 口腔 内に存在し、ヒトでは Streptococcus mutans と Streptococcus sobrinus があります。 う蝕 (虫歯)の原因菌のひとつです。一般では、 虫歯菌 という名前で広く知られています。 1924年 にJ. K. Clarkeによって虫歯により発見されました。砂糖の含まれた食物を摂取すると、ショ糖を原料にして菌の産生する酵素により粘着性の多糖体(ムタン= グルカン )をつくります。グルカンが形成されると、歯の表面で他の口腔細菌とともに塊を形成し、これがプラークと呼ばれ虫歯が発症および進行する最大の原因となります。近年では、プラークは バイオフィルム と呼ばれ、細菌が生き残るために備えた能力として解釈され、集団としての特徴的な機能発現が起こり、様々な病原性を発揮することが明らかとなりました。ショ糖のない環境では、歯表面に付着する能力は他の歯表面付着連鎖球菌群よりも低く、他菌との結合や凝集はあまり見られません。検査方法も充実し、選択培地の開発、遺伝子検査により菌を特定することが可能です。変異を起こさせやすいという特徴から、グラム陽性細菌のバイオフィルム研究のモデル細菌として重宝されています。特にバイオフィルム形成時の クオラムセンシングシステム が明らかにされたことで、このシステムは変異を起こすために必要なシグナルの発現、他の菌や自分を破壊する バクテリオシン の産生および耐酸性の獲得などに関与することが明らかになりました。これらは、新しいミュータンス連鎖球菌の病原機構の一つとして注目されています。 泉福 英信(国立感染症研究所細菌第1部)
歯垢は最近の塊 歯周病は日本人の成人の80パーセント以上が罹患する代表的な感染症で,歯ぐきに沈着した歯垢(プラーク)内の一群の細菌によって起こります。 症状としては,歯肉が赤く腫れ歯の周囲組織がこわれ,歯が抜けてしまう病気ですが,痛みを伴わないため知らないうちに症状が進みます。炎症が続くと骨を溶かす細胞(破骨細胞)が活性化されて歯を支えている骨を溶かしてしまいます。歯周病原菌は誰の口にも棲息する常在菌ですが,強い病原性を持つわけではなく,歯周病原菌が存在していても歯周病にならない人もいます。 口腔清掃が不十分でプラーク量が増え,加齢などにより免疫力が低下すると発症すると考えられています。口腔には700種類を越す細菌種が常在しています。これらの細菌は本来口腔粘膜の免疫担当細胞を刺激し,外来性の病原菌やウイルスの侵入を防いでくれます。 しかし,免疫力が衰え,特定の細菌種が増えてくると容赦なく組織内に入り込み,歯周病などの口腔疾患を発症します。歯周病は細菌だけが原因ではなく,免疫力の低下が問題となります。 歯周病と全身疾患 図4. 歯周病と全身疾患 近年,歯周病が糖尿病・心臓疾患・動脈硬化・誤嚥性肺炎・早産・低体重児出産・骨粗しょう症・腎炎・関節炎といった全身疾患の「リスクファクター」(病気の原因となる危険因子)となることがわかってきました(図4)。 糖尿病 糖尿病は歯周病を重症化させやすいと同時に,歯周病が糖尿病を重症化させる因子にもなっています。重度の歯周病患者では炎症細胞から産生されるサイトカインがインスリン抵抗性を惹き起こし,血糖値のコントロールが出来なくなると考えられています。 心臓疾患・動脈硬化 歯周病原因菌による炎症から血の固まりができやすくなるため,動脈硬化や心筋梗塞や狭心症などの原因となります。また,心臓の内側にある心内膜の炎症を引き起こし,細菌性心内膜炎もおこします。 誤嚥性肺炎 嚥下機能低下により歯周病原因菌などが肺に誤嚥されると肺炎の原因になります。通常では誤嚥された細菌は速やかに肺胞のマクロファージなどによって排除されますが,免疫力の低下により肺炎になります。高齢者の肺炎を減らすには,口腔ケアがきわめて効果的です。 早産・低体重児出産 歯周病により体内に産生される物質が,血流を介して胎盤に流入し早産を引き起こします。歯周病に罹患している妊婦は,早産に対し4倍,低体重出産に対し5倍のリスクがあると報告されています。口腔ケアは,お口ばかりでなく,全身の健康のためにもとても重要です。